……タイムマシン?
なるほどな。
見事に狸に化かされた訳だ。
確かに時を戻せたらどれだけいいだろうかと考えたことはある。
だがこんなボロボロな腕時計にそんなことができるとは到底思えない。
あんな夢、嘘に決まっている。
……でも
子供の頃に戻れたらやりたいことはたくさんあった。
生意気なあいつらに報復して、あの好きだった女の子に告白をしたい。
そして、トークが得意なタレントさんにでもなって、売れる本も出版して思う様な人生をエンジョイしてやりたい。
結婚してお金もたくさん儲けたい。そう、夢だった安定した老後を送ってやるのだ。
……全部、妄想だよな。
しかし、よくできた話だよな。
ん?この時計、ダイヤル調節機能があるみたいだ。
全部で百八まである……十四の数字は十四歳に戻るということだろうか?
百八とは百八歳のことか?煩悩の数だけあるとはますますリアルにできている時計だなあ。
……
つ、付き合えるのか? あの子と?
だ、ダメだ。試してみたい……。騙されてもいいから、この時計を。
ダメだ、ダメだ! これじゃ煩悩丸出しだ。
観音様も悪用はするなって言っていたじゃないか。
でも、仮にもし本当の話だったら?
あの、不遇だった少年時代を変えることができるとしたら?
自分のこの手で!
……
分かった! 試してみよう。
何が分かったのかは分からないのだが、こんな時に自分の中の醜い本性が表れるのだなあ。
メチャメチャな体験をして来てやる!
キリキリキリキリキリ。
僕はダイヤルを目一杯廻して十四の数字にセットしていた。
後はこのボタンを押すだけでいいのか。
行くよ……ポチ……っと。
……
……
な、何も起こらないのかな?
あれ? 何か眠気がやって来た。さっき飲んだビールが残っていたのだろうか。
まあいいや、寝てしまおう。どうせこれも全部夢なんだから。色即是空だ。
……おやすみなさい。
チュンチュン……。
いつもの小鳥が窓の近くに来ている、朝が来たみたいだ。
「弥勒ー!」
「起きなさい、弥勒! 学校の時間に遅れるわよ!」
「へ? お母さん、今日も学校は休みでしょ?」
「何、寝ぼけているの! 今日は大切な全校集会の日でしょう!」
え……。
どういうこと?
「ぜ、全校集会って……あれ、お母さん、いつの間にそんなに若くなったの?」
するとお母さんが少し照れる様な顔をして言った。
「もう、変な冗談言ってないで学校に行く準備をしなさい」
……ああ
僕は本当にタイムリープをしたんだ。
あの夢の中だけだった僕だけの居場所、あの現実世界に……。