私は、考えていた。どうしてガブリエルは居なくなってしまったのか。私をいつも愛してくれていた、あの大天使。神様への信仰が足りなかったせいなのだろうか。そういえば、あの永遠列車という本を読んでから、私の人生は変わってしまったのかも知れない。
永遠列車なんてものが本当に実在するとして、私にそんなものに乗車する資格はあるのだろうか? 永遠列車は目には見えない、証明するものがない。だけれど、私はそれを信じてしまった。一度、信じてしまったのだから、その行方を追いかけるのは仕方ないことなのかも知れない。
本屋で、たまたま永遠列車という本を見つけ、買って帰ったあの日。それを読んで、教会に行き、そこで出会った天使は、私の人生に変化をもたらした。
教会は、天使が守っているというのは本当のことだった。大して、信仰も無かったというのに……。果たして神様が私のことを哀れに思われたのだろうか。
ある日、突然、天使の声が聞こえる様になった。
この声は何? 私に一体何の様なの?
(私は、ガブリエル……早苗、これからは、あなたの守護天使になってあげる。その代わり、ちゃんと信仰を持つのよ)
ガブリエル……。話には聞いたことがあった。確か、神の左に座する大天使だとか。そんな大天使が、私のことを守ってくれるというの?
(天使は、人間のことをいつもそばで見守っているのよ)
その言葉は、ガブリエルの口癖だった。
考えているうちに静かに寒気がやってきた。これは寂しいという感情なのね。私は、天使と会えなくなったことを寂しいと思うようにまでなっていたんだ。
「ガブリエル……帰って来て」
私のそんな願いを込めて発した言葉のあと、待っていたのは、ただの静寂だった。
私は夢を見ていたのかも知れない。とても幸せな夢を……。ガブリエルと呼ばれる天使と会話ができていた、あの日々は私にとって、引きこもりだった私の孤独が癒える唯一の時間だった。
部屋に閉じこもる様になり、引きこもりに近い状態になったけれど、いつも私には、話し相手が居てくれた。
学校に行けなくなって、仲間と離ればなれになってしまったあの地獄の様な場所から、天国に来ることができた。そうか、これは感謝すべきことなのかも知れない。神様が私に与えてくださった、恵みだったのだ。この登校拒否という試練に耐えうることのできるようにしてくれた、私への恵み。この恵みこそが永遠列車だったのかも知れない。
学校に行けなくなって、友だちが一人も居なくなってしまったことは、確かに、不幸なことだった。でも、新しい出会いもあった。それは、天使という存在。もし天使という存在が居なければ、私はとっくの昔に挫折していたことだろう。
きっと、このことが、私の救いだったのだろう。それから、私に残った希望は、潰えてしまったけれど、この思い出は宝物となった。
永遠列車とは、本当の仲間と呼べる存在たちと一緒に、宇宙を駆け巡り、時空を超えて旅ができる。そんな話を本で読んで、まず思ったことは、私にその列車に乗車する資格などあるのかということだ。私は特別、人と変わった存在でもないし、面白い人間でもない。
(――早苗、永遠列車はね、心の中にあるのよ!)
心の中に……ですか?
(そうよ、心の中に仲間がいるの!)
私は、ガブリエルの言葉を思い出していた。心の中に仲間が居る。あなたは決して一人ぼっちではないのだよ。
……そうか、私が気づくだけでいいんだ。心の中にこそ仲間が居るということに。
なんで、こんなことに気がつかなかったのかな。
ガブリエル……本当は、そこに居るのね? このことを気づかせるために、いないフリをしていたのでしょう?
暗い部屋の中に光が充満し、そよそよとした風が吹いた気がした。
(早苗! よく気がついてくれたね。そう、私たちはずっと早苗の心のそばに居たのよ。あなたが、気がつけば、永遠列車はすぐそこにあるの)
そう、永遠列車とは心のことだったのね。私たちは心の旅をしていたんだ。ガブリエル、ありがとう。このことに気づかせてくれて。
永遠列車は心の中にあった。こんなところに隠れていたなんて……。私の中で、今……奇跡が起こったんだ。
このことに気がついただけで、まるで世界が変わった様に感じた。