すふにん小説

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2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

弥勒物語♯18

「おい、ミロクー、城下町へ来れば仕官できるって話はどうなったんだよぉ」 「そんなこと言ったって……人生にはうまく行かない事っていうのはたくさんあるんだよ!」 僕たちは宿に泊まり続けて一か月が経とうとしていた。 甘かった。城下町さえ来れれば武将に…

弥勒物語♯17

周辺の近くの村に無事辿り着いた僕たちは、呉服屋で、チカの真珠のネックレスをこの時代の服装と路銀に替えることになんとか成功した。 「しかし特殊な方言だったよなぁ、身体言語でなんとか乗り切れたな!」 交渉に成功できた最大の理由はチカの見事な弁舌…

弥勒物語♯16

毘沙門天堂に一つの経が響き渡る。 堂の中では、毘沙門天の彫像が祀られている。 その彫像の前で景虎はゆっくりと毘沙門天の真言を唱えていた。 「オンマイシラマナヤソワカ、オンマイシラマナヤソワカ、オンマイシラマナヤソワカ……」 ……この世は乱れておる…

弥勒物語♯15

僕たちは急ぎ足で宗泉寺に帰ってきた。 一体、俺の寺で何をするんだ?と不思議そうなチカだったが、お釈迦様の仏像の前に座ると驚くほど静かにしている、流石、住職の娘だ。僕はお釈迦様に話しかける。 「お釈迦様、御声をお聞かせください」 チカはつぶらな…

弥勒物語♯14

「それで? 元の時代戻れるどころか、ミロクが戦国時代に行ってしまう可能性もあるということなんだな?」 「そうなんだよ、それどころかお釈迦様のいる時代のカピラヴァストゥに行く可能性もあるんだ、まあこの本が絶対に正しいと決まった訳ではないのだけ…

弥勒物語♯13

タイムリープ、六日目。 僕は学校を休んで近くの公園に来ていた。 きっと、学校から連絡が親に行ったろうな……これじゃあ完全に不良息子だ。 公園のベンチに座り、思索に耽る。 これから、どうしたらいいのだろうか。 元の時代にも戻れず、過去に戻って新しい…

弥勒物語♯12

遠ざかる意識の中で夢想に浸る。 戦国時代にタイムリープするとはどういったことだろうか。 いや、それより。 カピラヴァストゥというのはお釈迦様の生まれた国じゃないか。 僕はそこに行くことになるのだろうか? 生きながら輪廻転生をするという意味だろう…

弥勒物語♯11

僕はなぜか必死で外に出るのを制止しようとしてくる親を振り切り、玄関のドアを開ける。 何やら親がわめき立てていたけど心配を掛けたかな。 不良になったと思われただろうな。 僕は自転車を漕ぎ、全速力で近くにある古本屋へ直行する。 時計を見る、もう夜…

弥勒物語♯10

僕はベッドに寝転がり冷静に今までの事を振り返った。 元の時代に戻れない可能性がある……。 果たして帰れないとして僕はこの時代で上手くやっていけるのだろうか。 正直、これはデートどころではないかもしれない。 観音様……夢には現れてくれないのでしょう…

弥勒物語♯9

これでいいのだ……。 僕は家に帰って勝ち誇ったかの様にして深呼吸をした。 あの後、先生からこっぴどく叱られたが関係ない。 誰が何と言おうと僕は僕の道を進むのだ。 でも、子供になってこの世界で僕は何を成し遂げればいいのだろう。 本当に過去を変えて未…

弥勒物語♯8

家に帰るとお母さんが自分の格好に目を丸くしていたが何も言わずにご飯を食べなさいと言ってきた。 完全に呆れられてるな。 でもこの展開は予想してなかった、てっきり怒るなり、叱るなりしてくると思ったのに。 ……まあ、いいか。明日のミッションを達成する…

弥勒物語♯7

「お母さん、ただいま」 僕は久しぶりの学校登校に神経を使ったのかベッドにすぐ横になった。 ……学校ってあんな感じだったかな。もっとレベルが低いものかと思っていたんだけどな。 いや、たまたま、あの小説オタクが気になっただけなんだ、きっとそうなんだ…

弥勒物語♯6

全校集会の時間になった、新学期が始まる定例の儀式なのだ。 うう、これはかなりきついな、立ちっぱなしというのは結構疲れるものだったんだな。 三十分も経過した後に解散となった。教室へと戻る様に先生に指導される。 教室に戻って来た後、今日は新学期と…

弥勒物語♯5

新しい朝が僕を迎えてくれる。何かとても、清々しい気持ちだ。 お母さんの手作りの朝食を食べる。 そうそう、懐かしいな。こんな味だったっけ。 そして、久しぶりの通学路を歩く。 学校は新学期が始まろうとしていた。 ダイヤルのメモリの目算は当てることが…

弥勒物語♯4

……タイムマシン? なるほどな。 見事に狸に化かされた訳だ。 確かに時を戻せたらどれだけいいだろうかと考えたことはある。 だがこんなボロボロな腕時計にそんなことができるとは到底思えない。 あんな夢、嘘に決まっている。 ……でも 子供の頃に戻れたらやり…

弥勒物語♯3

…… それからというものは地獄の引きこもり人生、それが今まで数えて十年も続いたのである。 十年間も。 色々挑戦しようとしたのだが、体力も落ちていて対人恐怖症になっていた僕はうまくコミュニケーションも取れない。 アルバイトすら器用にできやしなかっ…

弥勒物語♯2

玄関のドアを開け、自転車で三十分の距離のところにあるその川へと向かう。 この寒い、最強寒波とやらが迫っている時期に川へと向かえだって?無茶な注文なのである。 徒歩だと二時間ほどもかかるので仕方なく自転車を必死で漕ぐ。 「く、苦行かよ」 冷たい…

弥勒物語

ミロク、それが僕の名前である。漢字にすると弥勒である。仏教の未来に現れて衆生を救うとされる弥勒菩薩から取って、名づけられた。このお話は、過去や未来に行けるという仏教の都市伝説的なタイムトラベルができる時計を拾ってしまった哀れな僕の物語だ。 …