すふにん小説

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弥勒物語♯9

これでいいのだ……。

僕は家に帰って勝ち誇ったかの様にして深呼吸をした。

あの後、先生からこっぴどく叱られたが関係ない。

誰が何と言おうと僕は僕の道を進むのだ。

でも、子供になってこの世界で僕は何を成し遂げればいいのだろう。

本当に過去を変えて未来を変えたいのかな……。

仏教に出会ってからというもの身に覚えのない苦労がたくさんあった。

この世界に来ることで僕は何かを変えられるのだろうか。

お釈迦さまに聞いてみるか……。観音様がまた夢の中で現れないかなあ。

とりあえず、お経でも唱えて冷静になるか。

……

そのあと、両親が本気で僕のことを心配したのは言うまでもない。

タイムリープして第三日目。

あれだけ嫌だった学校が、今では極楽浄土にいるかの様な気分だった。

クラス中の皆が僕の事をもてはやしてくるのだ。

年上にバンドをやっている人がいるというのが追い打ちになるように効いたのだろう。

女子たちからはキラキラとした目、下級生からは尊敬する眼差しで見られるのだ。

不良のクラスメイトは怖がって僕の方に近づいてすら来ない。

そして……、何と言っても一番僕が嬉しかった事は。

憧れだった、女性……いや女子が僕に話しかけて来てくれた事だ。

これからは……。

僕の天下だ。

そうか、学校内で天下を取ることが仏の御心だったのですね!

もう一度、僕に青春時代をやり直させたかった仏の慈悲というものなのだろう。

ああ、これからは人生ジョイフル。未来のことを知っている僕には出世コースも確実だろう。

ここまで来れば憧れの人と付き合う事も夢ではない……いや、間違いなく結婚もできる!

さてと、そうと分かればもう怖いものなんか僕にはない。

早速、僕はある計画を立てていた。

そう、憧れの女性と付き合う為の……。

僕は、次の日に向けて驚くべき、作戦を実行しようとしていたのだった。

タイムリープ、四日目。

「あの、少し話があるんだけどいいかな?」

 僕は何とあの憧れの女性に話かけていた。

「うん……何?」

 周りのクラスメイトはキャーと騒ぎ立てた後、沈黙を守ろうとして静かになる。

「実はね、今度、ライブを見に行かない? とある芸能人のライブのチケットが取れたんだけどね……、一枚余っちゃって。一緒に行かないかなって」

「え!?」
  
 その子は驚きの声を上げる。

「君の好きなアーティストだよ」

「そんなの! 行くに決まってるじゃん! ミロク君ってサイコー!」

 ヒューという声が教室中から聞こえてくる。羨ましいという声すら聞こえてきそうだった。

中学生なんてこんなものだ。

好きな芸能人の前では誰もかれもが屈服するのだった。

僕は、貯金から全額下ろしたお金で買ったであろうチケットを彼女に渡すのであった。

ライブは明日の日曜日。

僕は喜びを表現できず心の中でただただ微笑むのであった。

ありがとう……観音様。

ただ、一つだけ気になる事があった。

今朝から腕時計の針が動かなくなってしまっていたのだ。

いくらダイヤルをリセットしても秒針は一向に動き出す気配がしない。

これは一体……?

もしかしたら……。

……元の世界には帰れない?