すふにん小説

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弥勒物語♯22

越後国を旅立った僕たち三人は寺を巡りながら修行も兼ねて観光を楽しんでいた。

なんせ路銀が使い放題と来たものだから旅に欠かせないものは何一つ不足することはなかった。どことなくチカの機嫌が良い。

「弥勒様、旅立ったのはいいものの、何かこの旅に不満はありませんかな? いや、寺を巡りながら各国を流浪する発想は私にはありませんでした。流石でございます」

 越後国を出てから謙信は僕のこと弥勒様と呼ぶようになった。

「え、いや。とんでもないです。こちらこそ何か粗相があったら遠慮なく言ってくださいね」

「身に余る光栄でございます」

 謙信は目を輝かせながら言った。

はて、流浪の旅とはなったものの、これからどうすればいいのやら。寺を巡りながら僕たちは第六天魔王を倒す方法についての手掛かりを探していた。

「謙信様、第六天に住む魔王とは一体何者なんでございましょう」

「ふむ、私にもわかりかねますが釈尊……あの釈迦如来を苦しめた特別な存在として越後国には伝わっておりまするな」

 第六天魔王……。

別名パーピマン。

お釈迦様が解脱の道を行こうとして成仏……悟りの可能性があったのでそれを見抜き、その直前になって散々苦しめた存在として知られている。逸話としてパーピマンの有名な言葉がある。

「シッダルダはこの俺の領分を越えようとしている。もし解脱でもさせられたら俺の存在そのものが危うくなる。これはいけない、そうはさせてたまるか」

 第六天魔王とはこの三界にいる欲望に塗れた世界にいる魔王のことを指す。ここから抜け出ることが大事であり抜け出すことによって解脱への道へとなり得るのだ。我々、仏道修行者はここからの解脱を目指している。

三界から流転すると自由自在になるのだから、このマーラ、悪魔の世界から抜け出るという意味を指す。これは現代の日本でも同じことが言えてほとんどの人が欲界にいるのである。

欲界とは欲望に繋がれて苦しみ迷うものを衆生の欲界という。美しい形に囚われている者のことを色界の衆生。美しさへの囚われは超えているが、なお迷っているものを無色界の衆生という。この三界に囚われている以上、この第六天の奴隷なのであって、自由な身分とは言えない。お釈迦様はここより脱せられたのである。

抜け出る方法としては八正道を守り、六波羅蜜を実行することが大事なのである。

「三界に居る以上はやはり地獄に落ちてしまいますか」

「うむ、欲に塗れた世界に居る以上、魔王の手にかかってしまいがちでございますな」

 我々、衆生もこの三界から抜け出す事が大事なのだ。欲望つまり、煩悩を捨てること。このことが仏教の秘密の教えなのである。解脱への道が悟りの道へと繋がるのは三界から抜け出ると悟りの世界に入る訳だから、真理が何の疑いもなくこの身へと降りてくる訳だ。真理の世界は第七天にあると言える。

我々、衆生はこの六欲天の最中に居るようなものだ。本当にこの世は危険が多い世界なのである。この世は欲に塗れた世界なのだ。

「えへへ、俺たちは欲に塗れた世界から抜け出る事が大事なんだよな、ミロク」

「ああ、その通りだね、チカ。目には見えない世界だからといってその事がわからないと、本当にとんでもない目に遭う。まさか我々が魔王の住む世界にいるなんて真実……普通の人には言えないからね」

 魔王を倒すにはやはり三界からの解脱が手掛かりになるのだろうか……。僕たちは焦らずいろんな寺で修行をしていくことにした。