すふにん小説

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弥勒物語♯24

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。

僕はひたすら寺に篭り一人でひたすら念仏を唱えていた。

戦後時代に来てからというもの、慣れないことで一杯だ。

信長を打ち取る?果たしてそんなことでこの乱世の世は変わってくれるのだろうか?

大体、戦争とはいえ人殺しが僕にできるとは思えない。

第六天魔王とはなんなのだ。そんなものがいるとしたら、一体この世をどうしたいというのだろうか。

観音様、どうか道を指し示してください。

僕は睡魔が押し寄せてきたのか、うつらうつらと目が萎む。

……。

篝火で炊かれている仏堂に妙な風が響く。

毘沙門天が飾られている仏堂の間に異変が起きる。

 

すると異質な何かが聞こえてきた。

……。


(お前は何者だ)

 ……!

(俺の存在に気がつくとはお主、ただの仏道修行者ではあるまい)

 心の中に雷が走るように聞こえてきたその声はどこかこの世のものとは思えない何かを感じさせる異質のものの様に感じた。

「お前こそ誰だ?」

 僕は尋ね返す。この声は一体。僕は寒気と同時にこの身に起きたテレパシーの様なものに驚く暇もなく、この声と対峙しなければならなかった。

(……)

「答えられないというのか、なら人を呼んでくるぞ、いきなり話しかけてきて名も名乗らぬとは何様のつもりだ、そんな輩と語り合う気にはならないし、こちらも名乗るつもりはない」

(第六天魔王波旬…)

 !!

(やはりお前、俺の存在に気づいておるな)

その存在は僕が反応したことに驚きの様子を見せる。

「ああ、あの魔王波旬と対話できるようになるとは思っても見なかったよ」

 パーピマン。

知らないという方がおかしい。天魔であり、仏教の天敵といった存在なのだ。仏教を修行しているものなら一度は戦ったことがあるか、僧侶なら本人は知らなくても知らず知らずに会ったことがあるはずなのだ。仏道修行を妨げている悪魔だ。僕もあの現代で散々苦しめられた。

僕を不登校にして、引きこもらせた張本人なのだ。

霊的な存在……。僕はその不確かな存在に対してこれまで疑いがあったがここでその観念は打ち砕かれた。やはりいたのか……。

「お前がこの世を弄んでいる張本人か」

(……)

(そうだ)

 その存在はこちらの様子を見ているかのように寡黙を貫く、こちらを完全に舐めてるな、この野郎。

(俺は先ほど、お前が町を見物していた時からずっとお前の様子を見ていた。喧嘩騒ぎがあった時も、それから身を隠そうとしていたこともな、あれではこちらに気づいてくださいと言わんばかりだ、これからは気をつけるがいい)

「お前はこの世界で何をしようと企んでいるのだ?」

(人間を魔物に変えることだ)

 知れたことと言わんばかりにその存在はあっけらかんと答えた。人間を魔物に変える?そんなことが可能なのか?どのような方法でと尋ね返すと意外な答えが返ってきた。

(人間の悪を利用してその悪に付け込む)

(何、簡単なことだ。私の配下をそれに取り付かせるのだ、そうすると人間は知らず知らずのうちに同化現象が起きる。本人の知らぬ間にいつの間にか魔物と化しているということだ)

 なるほど。

信心なく、怠けているといつの間にか我々はモンスターになっているということか。自分の煩悩や悪と対峙し分別しなければ人が堕落していくのはそういうことだったのか。

(お前の名前は何という?)

「弥勒……」

(その名、覚えておくぞ)

 そうしてその存在は姿を消した。