すふにん小説

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弥勒物語♯23

寺を巡りながら修行していた僕たちは、思いもよらない出来事と遭遇することとなる。

僕らは尾張国に来ていたのだが、そんな時、街中で喧嘩騒ぎが起きたのだ。

「あいや、待たれい、其方はこのわしにぶつかっておいて詫びの一言もないのかい」

 だが、ぶつかった方の町人も因縁をつけてきた相手に対し、その挑発に挑発で返す。

「なにぃ、ぶつかってきたのは其方ではないか。何の因果があって私に因縁をつけようとするのか」

 その二人は一歩も引くことを知らないと言わんばかりにその喧嘩騒動はますます大きくなり……。

ガヤガヤガヤ

街中もなんだなんだと騒ぎ出す。

するとそれまで見物をしていたある若者がその二人の中に割って入った。

「こら! お主らはなぜ喧嘩騒ぎをしようとするのか、町人が迷惑しておる。もし文句があるのならこの俺に向かって直接言いにくればいい、無駄な争いをするでないわ、たわけ!」

「なに! 其方は何者だ、うぬこそ何の権限があってそんな偉そうなことが言えたもんじゃ、やる気か、小僧」

「おう!」

 一部始終を見ていた謙信がこの場からお引きください弥勒様と僕の身を案じてくる。それもそうだ、こんな時に喧嘩に巻き込まれるわけにはいかない、ここは早くこの場から離れないと。そして僕たちが裏路地に隠れようとしたその時。

「参りました、どうかお許しください……」

 !

なんとその二人を仲裁するどころかぶちのめしてしまったのである。

「うむ、お主らもなかなかに強かったぞ、だがなぜこの町中で、こんな八百長争いをする気になったのか。わざと喧嘩していたのが見え見えだったぞ。この俺に言うてみろ」

「はい、実は……私どもは訳あって別の国からこの地に参ったのですが、この性格が災いしたのか士官に失敗し流浪の身となっておりました、路銀も尽き、ここは喧嘩騒ぎでも起こしてみれば果たして仕官の道に繋がるやもしれないと思ったのであります」

「馬鹿なことをする!」

 ははぁと二人は平伏する、二人とも随分な時をモノを食べていないのか気を失う寸前である。見たところ目が虚でどこかしら栄養不足のように見えた。

「お主ら、飯を食べれていないのか……なら、俺の城に来て飯を食うといい。俺も城下町の奴らと飯を食いながら話をするのが楽しみじゃ……何なら仕官の道を考えてやってもいいぞ」

「そ! それは本当でございますか!!」

「おう、ただし、二度とこの町で騒ぎを起こそうと考えるな、もし考えるようなら今度こそこの町から追い出してやるぞ」

「ははぁ!」 

 このお方には敵わない、そう悟ったのか、二人はますます平伏した。

……。

すると、横にいた村人からとんでもない言葉が飛び出した。

「あれが信長か」

 !!

「おい、チカ。信長だって。あれがのちに天下とりにまで近づいて第六天魔王の化身とまで言われた信長だよ」

 大人しく成り行きを見守っていたチカだったが、なんだってと目を見開く。

いきなりラスボスが目の前に表れたのだ、驚くのは当然である、しかし信長とはこのように豪胆な人物だったのか、果たしてこの若者を打ち取れるようなことが果たして現実にできるのだろうか……僕は一抹の不安を覚えた。

「チカ、大丈夫?そろそろこの町から離れよう。これ以上、僕らもこんなところにいちゃいけない。敵の大将にこちらの正体がバレると色々と厄介なことになるからね。早くどこかへ行こう」

 チカの手を引っ張ると、うんと頷き僕の後についてくる。

しかし、とんでもないことになった。

あの信長がこんなところに潜んでいたとは……天下を取るためにはこの若者を倒さなければいけない。そうしないとこの戦国の世に平和はやってこない。僕は本気でそんなことを考えるのであった。