すふにん小説

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弥勒物語♯28

「魔王に会いに行くですって!?」

 謙信は弥勒に何と言っていいのかわからないようでいる。

「一体、どのようにして? 会いに行くって言ってもどこにいるのかもわからないのでしょう?」

「いや、ちょっとアテがあるんだ、清洲城というところに行ってみようかと思う」

「清州……」

「すると信長のおられるところですな」

「ですが、普段は警備が固くて、とても入り込めるとは思いませんぞ」

「うん……だから」

 僕は一呼吸して言った。

「ここは、商人の振りをして忍び込もうかと思う」

「謙信様、金貨の方は余裕はありますか?」

「うむ……国の方から持ってきた貨幣ならまだ余裕はありますが……」

「それを使わせてください」

「ええ、それは当然。信長を討つ為ならばいかようにも用いてください、しかし……」

「果たしてそううまくいきますでしょうか?」

「ええ、僕に考えが」

すると僕は一枚の紙のメモを取り出した。

「種子島……ですか」

「ですが、鉄砲なんかを奴が買ってくれますでしょうか?」

 大丈夫、と僕は自信ありげに微笑む。

「未来の歴史においてこの頃、信長が鉄砲に興味を持ち、魅せられるようになるんだ、時期的にも同じ。だからうまく鉄砲の良さを伝えれば必ずうまくいきます」

 なるほど……と謙信は納得した。

「それでいきましょう、さすが弥勒様。私には到底思いつきもしない発想で。早速、種子島を数丁、手配することに致します」

「よろしくお願いします」

 そして僕たちは清州城に潜入する手筈を整えた。

「弥勒様、千佳殿。準備は宜しいか?」

 僕はいつでも、と自信ありげに頷いた。チカの方もいつでもいいぞと準備運動の体操をしている。

「私は顔が知られている故、お二人と一緒に赴くことはできませんがこの場所からお祈りしています」

「分かっています」

 それでは……と僕は商人の付き人を数人従えて清州城へと向かうのだった。

 ここは清州の城下町。鉄砲を数丁用意した僕らはすぐに城の方へとたどり着いた。

「すみません」

「私たちは旅の商人の者ですが、ここのご領主様にぜひお見せしたいものがございます。ぜひお目通りをお願いできないものでしょうか?」

 すると、城の門兵が分りました。お聞きしてきますと城内の方へ入って行った。

「お待たせ致しました。大丈夫でございます。ぜひ、中の方へとお進みください」

 作戦はうまく行った。ここまでくれば成功は約束されている。僕はチカの弁舌も頼りにして南無阿弥陀仏と祈るようにして中に入って行った。

 不安になった時や心配事がある時に南無阿弥陀仏と唱えると本当に楽になる。これは極楽に阿弥陀という仏がいる証明なのではないだろうか。僕は城の中に進みながらそんなことを考えた。

チカも僕が念仏を唱えているのを見て、南無阿弥陀仏と唱えている。僕の真似だろうか、本当にお二人は仲が良いですなあと従者の人が茶化してくる。

「えへへ、弥勒一人にこんな役目を押し付ける訳にはいきませんから」

 ……。

作戦は失敗できない。僕はいつの間にかチカにこんな頼りになる存在だったのかと思いつつそれを口にすることはなかった。

(ミロクか、聞こえるか)

「その御声はお釈迦さまですか?」

 僕はチカにお釈迦さまの声が聞こえてきたと合図をした。

すると声をよく聞いてとチカもサインを送ってくる。

(お前がこんなことをするとは思わなかったぞ、しかし何でこんなことをする? 私は魔王を討つように言ったがこんな無茶なことをしろと言った覚えはないぞ。すぐに引き返せ)

「お、お釈迦さま。し、しかし魔王を討つ手がかりがもう見つからず、このような方法しかないと……」

(大丈夫だ、私を信じなさい)

 ……。

分りました。と返事をして僕はチカに聞こえてきた内容を話す。

「お釈迦さまがそう話されたのか? なら、信じるしかないなあ。何とかうまく口実を作って抜け出そうか? 鉄砲のことは専門の商人に任せることにしような」

 そうして僕とチカの二人は急遽、作戦を中断することとなった。