すふにん小説

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弥勒物語♯15

僕たちは急ぎ足で宗泉寺に帰ってきた。

一体、俺の寺で何をするんだ?と不思議そうなチカだったが、お釈迦様の仏像の前に座ると驚くほど静かにしている、流石、住職の娘だ。僕はお釈迦様に話しかける。

「お釈迦様、御声をお聞かせください」

 チカはつぶらな瞳で何をやっているんだミロク?といった顔でこちらを見ている。

(おお、ミロクか、チカも一緒なのか……しかし、おまえたちいつの間に)

「いえ……先ほど公園でたまたま会って……それよりお釈迦様……この時計については何か分かったでしょうか?」

(ふむ……この腕時計、詳しい者に調べて貰ったのだが確かに時間旅行ができる代物らしい、しかし一体何だっておまえがこんなものを)

「いえ、それについては話せば長くなるのですが……」

 ……。

「おい、俺は夢でも見てるのか、ミロク……」

 チカがこの現象は何?と目を見開く。お釈迦様が、いや我が家の仏像が喋っているのだ、夢でも見ていると思うのは当然だろう。

「これで信じて貰えた?」

「だから俺は初めから信じるって言ってんだろう? は、初めてのことだからちょっとビックリしちゃっただけだい。でも直にお釈迦様の御声を聞けるなんてなぁ……」

(チカとはもう少し後になって夢の中で会おうと思っていたのだが……いや、楽しみが一つ減ったわい。しかし二人ともよく成長したな、わたしは嬉しいぞ……)

「そんな、えへへ。お釈迦様ったら、お世辞でも嬉しいです……お釈迦様もご息災でいらっしゃいますか?」

 おい、普段と言葉使いがえらく違わないか!とチカにツッコむと当たり前だろ!と怒鳴ってくる。ま、まあいいや。

「お釈迦様、一体、この時間旅行とはどのような仕組みだったのでしょうか?」

(うむ、それはな、調べて貰ったところ、どうもこの機械は夢の中に行くというシステムらしいのだ。夢の中に行く、だから過去を変える事は流石にできない……ただし)

(どうも、夢の世界に行くことで過去の住人と霊体として会ってくる事は可能らしい。つまり実相はないがその夢の住人は生きている。だから、意識……つまり相手の心を変えることは可能だということだ。つまりおまえの今の姿は霊体なのだ、実際のおまえの体は十年後の未来で部屋の中で寝ているよ)

「つまり実際に肉体がタイムリープするものではなく、夢の世界に行かせるものだと……つまり、現実ではないということですか? それより、お釈迦様。僕が戦国時代に行くというのは本当のことなのでしょうか? 行ったところで大した活躍はできないと思いますよ?」

 いや、いい機会だろう、戦国時代に行ってみなさい。よい修行になるだろうとお釈迦様はノリノリだ。これはあかん。

(ふむ、体験させた方が早いだろうな。ミロク、ここに横になって寝てみなさい)

「あの、ちょっと待ってください」

「私もミロクと一緒に戦国時代の夢の世界に行って来ます」

 すると仏像がピクリと動いた。

(チ、チカ? おまえ何を言っているんだ?)

 さては公園で何かあったな!?と心の中を探る様な目でチカを見つめる。

「いえ、ミロクが心配なだけです、本当です。というか、ミロク一人で戦国時代に向かわせる様な事は私にはできません」

 お願いします。と千佳が仏間で土下座をする。お前って奴は……どれだけ良い子なんだ。

(し、しかしなぁ)

 僕からもお願いしますと千佳と一緒に土下座をした。僕も一人ではあまりにも心細い。夢とはいえ二人の方がこの修行も楽にこなせるだろうといつも以上に真剣になる。

(……分かった)

 やった!と思ったのもつかの間。

(ただし、ただしな、万が一、万が一でも、おまえがチカに何かしたその時は……その時はわしといえども許さんからな。極楽に入れてやらないばかりか……わしの権限で来世へ輪廻転生させてやる。いいか……覚えておくんだぞ、わしには何でもお見通しなんだからな!)

 はい……。分かっております……。

そうして僕たちは仏間の中央で横になった。これでいいのだろうか。なんとも滑稽な姿だ。

……。

意識が遠くなっていく。ああ、この感じはタイムリープで間違いない。今度は戦国時代かあ。やれやれ。とんでもない修行を課せられたものだ。それより霊体となって相手の心を変えてくるというのはどういう事だろう。全く意味が分からない。まあいいや、頑張ってくるか。

そうして僕たちは戦国時代へと向かうのであった。