すふにん小説

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弥勒物語♯14

「それで? 元の時代戻れるどころか、ミロクが戦国時代に行ってしまう可能性もあるということなんだな?」

「そうなんだよ、それどころかお釈迦様のいる時代のカピラヴァストゥに行く可能性もあるんだ、まあこの本が絶対に正しいと決まった訳ではないのだけど……」

 そしてチカは僕の家に来ていた。本来なら絶対に男の子の家に上がる様な子ではないのだが、この緊急事態において仕方ない……と静々と上がって来たのだ。これは本当に、奇跡に近いことである。まあ何か変なことをしたら、千回グーでしばき倒して、二度と口を聞いてやらんと……再三、脅された訳だが。

まぁ、おまえにそんな勇気があったら、ここは素直に結婚してやるしかないな……とチカが謎のセリフを零して、部屋に上がり込んで来た時は、もう心臓が破裂しそうになった……どっちなんだよ。

そして、何とか平常心を取り戻した僕はこの古本屋で買った「タイムリープして未来に現れるとされる弥勒菩薩」の本をチカに見せた。ふむふむ、とチカは覗き込む様にして本と睨めっこをしている。時折、すげぇーと声が漏れている。

「そうかなぁ……俺なんかは、この目で実際にお釈迦様に会ってみたいけどなぁ……」

「……チカは気楽でいいなあ」

「ほら、この部分読んでみて……戦国時代に行って未来から来る弥勒、第六天魔王を討ち取り天下を取る、弥勒幕府を開き、そして戦国の世が平定され弥勒下生信仰が生まれ、弥勒が仏の様に賞賛される……」

 ……。

「……これおまえの事か? すげぇーなぁ、俺も皆から仏の様に賞賛されたいなぁ……」

「チカ……ふざけてないで、どうにかなる様に一緒に考えてくれよぉー」

「まぁまぁ、戦国時代に行く様なことになったら、俺もミロクと一緒に行ってやるからさ。女傑な女武将にでもなって、おまえの事を助けてやるよ……だから、あんま気にすんな、えへへ。あ、天下を取った暁には石高は半分はくれよな!」

若干誤解される発言だぞ、それ。

「なんだよ、それ……」

 大体、一緒に行ける保証だってないのに、あああ……本当に、僕一人で行くような事になったらどうしたらいいんだろう。そうなのだ、僕一人で行ける保証なんて全くない。それこそチカが一緒に来てくれる様な事があったならどれだけの救いなのだろう。戦国時代で何も知らない現代人が、何かできるとは到底思えない。観音様、どうかお智慧を御授けくださいませ……。

「あ! そうだ! お釈迦様!」

 ん?どうしたと言わんばかりにチカがこちらを見てくる。ここでお釈迦様と話せる秘密をチカに打ち明けるべきであろうか……だがしかし、手が全くと言っていいほど、浮かばなかった僕は悩んだ末に僕はチカに告白していた。

「え……宗泉寺で……お釈迦様と?」

 チカは鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしていた。

「うん、一緒に、寺に行こう、ここはお釈迦様を頼ってみよう」

 そして僕らは宗泉寺に向かうのだった。