すふにん小説

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弥勒物語♯11

僕はなぜか必死で外に出るのを制止しようとしてくる親を振り切り、玄関のドアを開ける。

何やら親がわめき立てていたけど心配を掛けたかな。

不良になったと思われただろうな。

僕は自転車を漕ぎ、全速力で近くにある古本屋へ直行する。

時計を見る、もう夜の八時だ。まだ冷たい風が頬を掠める。

念のため、僕は自転車を漕いでいる足を止め、タイムリープマシンをチェックする。

ダイヤルを回し、元の時代の年齢である二十五にセットする。

そしてボタンを押した。

……。

やはり何も起きない。

もう僕の精神状態は限界だった。何とかして元の世界に戻る方法を考えないといけない。

参考になる本があるといいけれど……。

古本屋に着き、仏教関連のコーナーを回る。

ここの本屋は仏教の専門店で仏教と名が付く本なら何でも揃う。

ええと……、禅宗の曹洞宗、法華経の日蓮宗、密教の真言宗、極楽思想の浄土真宗、色々な宗派の本がある。

密教が怪しいな……。

密教とは仏教の秘密の教えを師から弟子に口伝でのみ伝える儀式がある宗派である。

仏教の一般的な宗派である顕教とは区別されて密教と呼ばれることがある。

例えば般若心経がそれだ。

仏の全ての教えを二百六十の文字に詰め込んだというお経である。

空海……弘法大使が中国の唐から持ち帰った教えである。シルクロードを渡った三蔵法師の様なものだ。

大まかにいうと密教とは、大日如来の仏像の前に座り、ひたすら三密を守り、大日如来像から宇宙の真理を教えて貰うという教えである。それを代々師が弟子に口伝で教えていくのだ。

多分、仏教と少し離れた感じのある密教なら僕の知らない教えがまだあるはずだ。

僕はそう推察していた。

密教……密教……。

……。

これは?この本は何だろう。

「タイムリープして未来に現れるとされる弥勒菩薩」

この本、間違いない。この僕のことだ。

きっと僕のことが書かれているに違いない。

よ、よかった……これで何とかなるかもしれないぞ。

僕は体中から力が抜けてその場に崩れ落ち、その本を胸に抱きしめた。

値段を見ると三千円だった。僕は早々、レジへと持っていく。

「ありがとうね、僕」

 いやいや、こちらこそとお爺ちゃんに感謝してから僕は店を出て帰宅する。

急いで帰宅してきた僕はフラフラになりながら机に向かおうとするのだが……。

まず先にと僕は彼女に断りの連絡を入れてからお風呂に入りリラックスしてから読書を始めた。

何かヒントがあればいいけれど。

僕はペラペラとページを捲り、ある章に注目した。

【全ての時代を巡り、時を繰り返す弥勒。その年月、五十六億七千年】

……タイトルを見て身が凍り、更にその内容を詳しく見てみることにする。

シーンという静かな部屋でそれまで一定のリズムを刻んでいた心臓の鼓動が時計の秒針より早くなった。僕は自分では止めることのできない何かの爆弾が爆発するんじゃないかと思わせる胸を押さえながら目を凝らして次の箇所を見た。

3章~自身の子供の頃にタイムリープする弥勒~その場所で同じ時を繰り返し戦国時代にタイムリープする弥勒~そして当時のカピラヴァストゥが存在するインドのネパールにタイムリープする弥勒~最後に現代へと転生する弥勒下生信仰。

こ、これは一体。

どういうことだ?

僕は気絶するかの様にして机に頭をゴンと叩きつけてショックのあまりに深い眠りに着くのだった。